小説すばる
2017年10月号 掲載
近未来の話
両親鬼籍、30間近、結婚間近の片岡廻(めぐる)は
ブライダルチェックで母親との血縁関係がないことを知る
が、戸籍は実子
母親からは本当に可愛がられ、仲もよく、
愛情を感じ育ってきた
父親と血縁関係がないのなら父の浮気だと想像がつく
が、不妊治療の末授かったと喜んでいた母親と
血がつながっていない状態が理解できない
不妊治療での卵子の入れ間違いだとしても
母親は不妊治療を止めて3か月後に自然妊娠していたので
日数が合わない
自分がなんなのかわからなくなり
実の母親が知りたいと
病院での確認後、不妊治療をしていた
今泉レディースクリニック、当時の所長のもとへ行く
そのクリニックでは受精卵の取り違えた事件があり
自分もそうなのではと想像する
今は寺に住んでいる所長は義眼で不思議な色の目をしていた
病気で失明した医師は、友達の実験に実験体として参加
今はモノクロだが、目が見えると言う
所長は昔のカルテを見ながら
当時の状況を説明
受精卵の状態がいいものをグレード1
悪いのはグレード5、
あなたの母親の受精卵はグレード3だったと
懐かしく話す
当時の治療の大変さ(不妊治療は子供が欲しい夫婦の
最終手段だった)、今はもっと楽に
子供が欲しい人は持てるのにと話す所長だが
自分のクリニックで起きた受精卵取り違え事件について
聞いても、あまり申し訳ない感情は見せず
結局訴えは取り下げられ、
その夫婦は血のつながらない子供を実子として
育てたんだから、納得してるならいいじゃないかと
のらりくらり
子供が必要ない女性が中絶する一方で
体を痛めても子供を欲しがる人がいる
使われなかった受精卵は廃棄される
どの状態から人は人とみなされるのか
受精卵も人ではないのか
懸命に生きているのに
と所長
母親を知りたがる片岡に
愛されて育ち幸せで
今も育ての母を尊敬しているのだから
今更知る必要はないだろうと言う
片岡は
この事実を知ってアイデンティティが崩れている
不安でたまらない
この状態を引き起こした犯人に謝ってもらいたい
と反論
やれやれと呆れつつ、所長は
義眼を作った友人の話をする
実験的なことをする友人は昔産婦人科医で
治療で必要なくなったり
保管料を払わなかったりして
母親から選ばれず捨てられる受精卵を
身を切るような気持ちで処分していた
そして生命の源である受精卵を救うことを考え付く
廃棄してくれの連絡すらよこさない
保管料も払わない人達は育児放棄をしたのも同じ
そういう人の受精卵を里親へと渡した
保管料払わなかったら病院が保管を停止すると書いてあるし
使うことを知らなかったら問題ない
声も上げられない子の生死すら投げ出した人に
その子たちが生きていくのを非難する権利はない
彼らがしたのは虐待であり
友人は命を保護したと所長
産まれた状態から命と呼び
それ以前は人ではないと言うのなら
人ではないものをどうしようが問題ない
女性の体には出産までの期限がある
法の改正を待っていたら間に合わなかっただろうと談
問題になると困るので友人が
それをやる時は先に不妊治療したことにして金をもらい
不妊治療後3か月開けてから行っていた
当然する人の同意は得ている
証拠は何も残っていない
訴えることもないと所長
母はその案に乗り、法を犯した
母親は子供が欲しいあまり犯罪者になり
自分は誰の子かもわからない
自分を知りたくて来たのに
分かったことは、母が犯罪者になった末に
生まれた子供であるということ
どうしても子供が欲しいなら法を破っていいのか?
それは本当に愛なのか?
と混乱
友人はあなたのことじゃないですか
腹立たしい、あなたは偽善者だ
と泣く片岡に
血の繋がらない子供さえ引き受ける人間の愛は素晴らしい
その崇高さを味わえばいいと談
今までこんなに深く友人の話をした人はいない
あなたがグレード2の受精卵の時
フラグメントが少しあるけどいい顔をしていた
だから選んで、里子に出した
それが成功してあなたが生まれている
生き別れになった息子に会えたような気分と所長
病魔に侵されて命が長くないし
義眼ももうすぐ見えなくなるので
あなたが最後に会える里子だろう
里子たちが一人残らず幸せになるのが私の願い
笑っていてほしい
私は良い仕事をしたとにっこり
私のことをお父さんと呼んでもかまいませんよ
と陶酔して両手を広げる所長を呆然と見つめる
片岡なのだった
終わり
これは結構好き
受精卵の陶酔のところが
最後の「パパと呼んでいいよ」のところは
作りすぎだぁという気がしたけど
それも楽しかった
ただ失明していた人が
自分一人で義眼の手術ができるとは思いにくい
手伝ってくれる人がいたんだろうか
その人の口封じはしなくてよかったんだろうか
手伝ったのって、現クリニック所長である
彼の息子かな
2017年10月号 掲載
近未来の話
両親鬼籍、30間近、結婚間近の片岡廻(めぐる)は
ブライダルチェックで母親との血縁関係がないことを知る
が、戸籍は実子
母親からは本当に可愛がられ、仲もよく、
愛情を感じ育ってきた
父親と血縁関係がないのなら父の浮気だと想像がつく
が、不妊治療の末授かったと喜んでいた母親と
血がつながっていない状態が理解できない
不妊治療での卵子の入れ間違いだとしても
母親は不妊治療を止めて3か月後に自然妊娠していたので
日数が合わない
自分がなんなのかわからなくなり
実の母親が知りたいと
病院での確認後、不妊治療をしていた
今泉レディースクリニック、当時の所長のもとへ行く
そのクリニックでは受精卵の取り違えた事件があり
自分もそうなのではと想像する
今は寺に住んでいる所長は義眼で不思議な色の目をしていた
病気で失明した医師は、友達の実験に実験体として参加
今はモノクロだが、目が見えると言う
所長は昔のカルテを見ながら
当時の状況を説明
受精卵の状態がいいものをグレード1
悪いのはグレード5、
あなたの母親の受精卵はグレード3だったと
懐かしく話す
当時の治療の大変さ(不妊治療は子供が欲しい夫婦の
最終手段だった)、今はもっと楽に
子供が欲しい人は持てるのにと話す所長だが
自分のクリニックで起きた受精卵取り違え事件について
聞いても、あまり申し訳ない感情は見せず
結局訴えは取り下げられ、
その夫婦は血のつながらない子供を実子として
育てたんだから、納得してるならいいじゃないかと
のらりくらり
子供が必要ない女性が中絶する一方で
体を痛めても子供を欲しがる人がいる
使われなかった受精卵は廃棄される
どの状態から人は人とみなされるのか
受精卵も人ではないのか
懸命に生きているのに
と所長
母親を知りたがる片岡に
愛されて育ち幸せで
今も育ての母を尊敬しているのだから
今更知る必要はないだろうと言う
片岡は
この事実を知ってアイデンティティが崩れている
不安でたまらない
この状態を引き起こした犯人に謝ってもらいたい
と反論
やれやれと呆れつつ、所長は
義眼を作った友人の話をする
実験的なことをする友人は昔産婦人科医で
治療で必要なくなったり
保管料を払わなかったりして
母親から選ばれず捨てられる受精卵を
身を切るような気持ちで処分していた
そして生命の源である受精卵を救うことを考え付く
廃棄してくれの連絡すらよこさない
保管料も払わない人達は育児放棄をしたのも同じ
そういう人の受精卵を里親へと渡した
保管料払わなかったら病院が保管を停止すると書いてあるし
使うことを知らなかったら問題ない
声も上げられない子の生死すら投げ出した人に
その子たちが生きていくのを非難する権利はない
彼らがしたのは虐待であり
友人は命を保護したと所長
産まれた状態から命と呼び
それ以前は人ではないと言うのなら
人ではないものをどうしようが問題ない
女性の体には出産までの期限がある
法の改正を待っていたら間に合わなかっただろうと談
問題になると困るので友人が
それをやる時は先に不妊治療したことにして金をもらい
不妊治療後3か月開けてから行っていた
当然する人の同意は得ている
証拠は何も残っていない
訴えることもないと所長
母はその案に乗り、法を犯した
母親は子供が欲しいあまり犯罪者になり
自分は誰の子かもわからない
自分を知りたくて来たのに
分かったことは、母が犯罪者になった末に
生まれた子供であるということ
どうしても子供が欲しいなら法を破っていいのか?
それは本当に愛なのか?
と混乱
友人はあなたのことじゃないですか
腹立たしい、あなたは偽善者だ
と泣く片岡に
血の繋がらない子供さえ引き受ける人間の愛は素晴らしい
その崇高さを味わえばいいと談
今までこんなに深く友人の話をした人はいない
あなたがグレード2の受精卵の時
フラグメントが少しあるけどいい顔をしていた
だから選んで、里子に出した
それが成功してあなたが生まれている
生き別れになった息子に会えたような気分と所長
病魔に侵されて命が長くないし
義眼ももうすぐ見えなくなるので
あなたが最後に会える里子だろう
里子たちが一人残らず幸せになるのが私の願い
笑っていてほしい
私は良い仕事をしたとにっこり
私のことをお父さんと呼んでもかまいませんよ
と陶酔して両手を広げる所長を呆然と見つめる
片岡なのだった
終わり
これは結構好き
受精卵の陶酔のところが
最後の「パパと呼んでいいよ」のところは
作りすぎだぁという気がしたけど
それも楽しかった
ただ失明していた人が
自分一人で義眼の手術ができるとは思いにくい
手伝ってくれる人がいたんだろうか
その人の口封じはしなくてよかったんだろうか
手伝ったのって、現クリニック所長である
彼の息子かな

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